新人を潰すベテランが後を絶ちません。人出不足の昨今では甚大な問題です。
今日の申し送り
ベテランのプライドが邪魔して新人の成長を妨げていないか?技術は進化する。若手の意見を無視する組織に未来はない。
工場の現場や技術職の世界では、「経験がすべて」と言わんばかりのベテランがいる。しかし、そんなプライドが邪魔をして、若手の意見を無視したり、頭ごなしに否定したりしていないだろうか?
「そんなやり方じゃダメだ」
「昔からこうやってきたんだから、変える必要はない」
「新人は黙って先輩の言うことを聞いていればいい」
こうした言葉が飛び交う現場は、少なくない。しかし、そうして若手を押さえつけ続けた結果、技術の進化に乗り遅れ、会社全体の競争力を失った例もある。
本田宗一郎は、ベテラン技術者が若手の意見を軽視することを許さなかった。ある会議で、新人のアイデアを一蹴したベテランに対し、こう怒鳴ったという。
「お前たちは年を取るほど馬鹿になるのか!若い連中の意見を聞け!」
この言葉には、技術者としての誇りと未来への危機感が詰まっている。技術は常に進化する。古いやり方が通用しなくなることもある。それを受け入れずに、「昔のやり方」に固執するベテランが現場をダメにしているとしたら、それは由々しき問題だ。
今回は、ベテランが新人を潰してしまうことで、どんな悪影響があるのか、そしてどうすれば未来ある現場を作れるのかを考えていく。
ベテランの「俺のやり方」が現場を衰退させる
工場の現場に長くいると、自分のやり方に自信がつく。それ自体は悪いことではない。しかし、「俺のやり方が正しい」という思い込みが強くなりすぎると、次のような問題を引き起こす。
1. 若手のモチベーションが低下する
「どうせ言っても無駄だ」「新しい提案をしても怒られるだけ」——そんな雰囲気が蔓延すると、新人は何も言わなくなる。ただ言われたことをやるだけの「作業員」に成り下がり、考える力を失ってしまう。結果的に、現場に活気がなくなり、イノベーションが生まれない。
2. 時代遅れの技術が蔓延する
工場の技術は日々進化している。新しい設備、新しいシステム、新しい管理手法……。若手は学校や研修で最新の知識を学んでくるが、それを「俺たちの時代にはなかったから」と否定するベテランがいたら、会社は技術革新に乗り遅れてしまう。
3. ベテラン自身の成長も止まる
「若手の話なんて聞く必要がない」と考えるベテランは、自分自身の成長も止めてしまう。長年の経験があるからこそ、新しい視点を取り入れ、さらに進化することができるのに、それを拒否するのはもったいない話だ。
では、どうすればこの問題を解決できるのか?次の中編では、ベテランと新人が共存しながら成長できる方法を深掘りしていく。
ベテランと新人が共存するための課題分析

前編では、ベテランが新人の成長を妨げることで、現場全体の未来が危うくなるという話をした。では、なぜこのような問題が発生するのか? そして、どのようにすれば現場をより良い方向へ導くことができるのか?
ここでは、日本の労働文化や企業体質、心理的要因などを掘り下げ、具体的な課題を明らかにしていく。
1. なぜベテランは新人を潰すのか?
■ 日本の「年功序列」と「縦社会」の影響
日本の多くの企業では、「年功序列」が根強く残っている。長く会社に勤めている人が偉く、若手はまず「忍耐」を求められる。
・「先輩のやり方を覚えてから一人前」
・「若手が意見を言うのは生意気」
・「まずは雑用をこなして、信用を得ろ」
こうした風潮が、新人の意見を潰す原因になっている。もちろん、基礎を学ぶことは重要だが、新しい視点を活かさなければ現場は進化しない。
■ 「俺の時代はもっと厳しかった」という呪縛
ベテランの中には、「自分も苦労したんだから、若手も苦労すべきだ」という考えを持っている人が多い。これは「サンクコスト効果」と呼ばれる心理的バイアスの一種で、過去に投資した努力を正当化しようとするものだ。
・「俺の若い頃はもっと理不尽だった」
・「あの頃に比べたら、今の若手は楽をしすぎている」
しかし、時代は変わる。技術も働き方も進化しているのに、過去の苦労を押し付けることに意味はあるのか? 「厳しさ」だけでは、新人は育たない。
2. 現場での具体的な問題点
■ 若手が意見を言いにくい空気
ある製造現場で、新人が改善提案を出したところ、「そんなことは考えなくていい」と一蹴されたという。結果、その新人は二度と意見を言わなくなった。
これでは、組織の成長が止まる。若手の意見を受け入れる文化がないと、新しい技術や改善策が生まれず、業務の効率も上がらない。
■ OJTが機能していない
OJT(On-the-Job Training)は、新人を育てるための実践的な研修方法の一つだが、「見て覚えろ」「勝手に学べ」という放置型OJTが多い。ベテランが指導の仕方を学んでいないため、ただ経験を押し付けるだけになっている。
これでは、新人は正しい技術を習得できず、「現場にいるだけの人材」になってしまう。
■ 「経験者募集」の罠
人手不足を理由に、企業は即戦力ばかりを求め、「経験者募集」を増やしている。結果として、新人が育つ機会が減り、業界全体の人材不足が深刻化する。長期的に考えれば、新人育成こそが会社の競争力を高めるはずなのに、目先の利益を優先することで、未来の現場が崩れていく。
3. ベテランと新人が共存するために必要なこと
では、どうすればベテランと新人が共存し、成長できる現場を作れるのか?
① 「教える力」を鍛える
ベテランが「技術を持っていること」と「教えるのが上手いこと」は別の話だ。指導の仕方を学び、「どう伝えれば新人が理解しやすいか?」を意識する必要がある。
② 「新人の意見を聞く文化」を作る
新人が自由に発言できる環境を作ることが大切だ。本田宗一郎のように、「お前たちは年を取るほど馬鹿になるのか!」とまでは言わなくても、「新人の意見を聞くことが成長につながる」と理解する必要がある。
③ 「新人を育てることがベテランの役割」だと認識する
現場は一人では回らない。経験を積んだベテランが若手を育てることで、組織全体が強くなる。「新人は自分の後継者になる存在だ」と意識し、積極的に育成に関わることが求められる。
次の後編では、実際の企業の成功事例をもとに、新人を潰さずに育てる方法を解説していく。未来の現場を作るために、今すぐできることを考えてみよう。
新人を育てることで現場の未来をつくる

前編・中編では、ベテランが新人の意見を潰すことで生じる問題点と、その背景にある日本の労働文化について掘り下げてきた。では、実際にどのようにすれば「若手を活かし、現場の未来を切り拓く」ことができるのか? 今回は具体的な解決策と、成功事例を紹介する。
1. 新人を活かすために現場でできる具体策
① 「ベテラン×新人」の対話の場を設ける
現場では、「会話がない」ことが問題の根本になっていることが多い。新人は意見を言えず、ベテランは「最近の若いもんは…」と不満を抱える。これを解決するために、以下のような取り組みを導入する。
- 毎週5分でも良いから、ベテランと新人が話す時間を設ける
- 新人が感じた疑問や提案を、ベテランがフィードバックする場を作る
- 「否定しない」ルールを導入する
- どんな意見でもまずは受け入れる姿勢を持つ
これを徹底するだけでも、新人の意見が出やすくなり、現場の雰囲気が大きく変わる。
② 「新人の意見を反映する」仕組みをつくる
意見を言うだけでは意味がない。実際に「改善提案」が採用される仕組みを作れば、新人のモチベーションも向上する。
成功事例:トヨタのカイゼン活動
トヨタでは、現場の作業員一人ひとりが「カイゼン提案」を行い、それが採用されれば表彰される制度を導入している。新人でも関係なく意見を出すことができ、採用されれば報酬が出る。
結果、年間70万件以上のカイゼン提案が生まれ、そのうち実際に採用されるものは98%にのぼる。
このように、「新人の意見が現場に反映される仕組み」を作れば、若手の成長を促進できる。
③ 「教える文化」を作るために、ベテランを教育する
多くの企業では、新人研修はあるが、「ベテラン研修」はほとんど行われていない。しかし、実際には教える側が指導力を高めない限り、効果的な育成はできない。
成功事例:パナソニックの「指導者研修」
パナソニックでは、一定年数勤務した社員に対し、「教える技術」を学ぶ研修を義務化している。単なる技術指導ではなく、心理学をベースにした「効果的なコミュニケーション」や「モチベーションの引き出し方」を学ばせる。
この結果、新人の定着率が向上し、現場全体の生産性が15%向上したという。
教える側が変われば、新人の成長速度も格段に上がる。
2. 実際の企業の成功事例
① 「若手主体の改善活動」で業績を伸ばしたオムロン
オムロンでは、従来の「ベテラン主導」の業務改善から、「若手主体のプロジェクト」を立ち上げる方式に転換した。
- 20代~30代の若手社員を中心にチームを組み、課題解決を任せる
- ベテランは「指導者」として、若手のサポートに回る
- 失敗しても責任を問わず、学びの機会とする
結果、新しい製造ラインの効率が向上し、年間10億円以上のコスト削減を達成した。
ベテランが「口を出しすぎない」ことで、若手が主体的に考え、現場の成長につながった事例だ。
② 「見て覚えろ」を廃止し、新人育成に成功したダイキン工業
ダイキン工業では、長年「職人技」が重視され、「見て覚えろ」の文化が根強かった。しかし、新人がなかなか育たず、技術の継承が難しくなったため、以下の取り組みを実施。
- マニュアルを徹底的に可視化
- 新人が質問しやすい「メンター制度」を導入
- ベテランが「教えること」に集中できる時間を確保
この結果、新人の定着率が25%向上し、育成期間も40%短縮された。
「見て覚えろ」の文化を廃止し、体系的に教える仕組みを整えることで、新人が育ちやすい環境が生まれたのだ。
結論:未来をつくるのは、新人を育てるベテランだ
技術は進化する。人も変わる。しかし、それを受け入れるかどうかは、ベテランの意識次第だ。
本田宗一郎が「若い連中の意見を聞け!」と叱責したように、新人の意見を受け入れ、活かしていくことが、現場の未来をつくる。
今日からできるアクションはシンプルだ。
✅ 新人と話す時間を5分でも作る
✅ 「否定から入らない」ことを意識する
✅ 教える技術を学ぶ姿勢を持つ
この3つを意識するだけでも、現場の雰囲気は変わる。
ベテランが変われば、新人は成長し、組織は強くなる。
そして、その組織が未来をつくっていく。
新人を潰すベテランを許すな。
未来をつくるのは、若手を育てる覚悟を持ったベテランだ。